保護犬や保護猫という言葉の浸透とともに、里親を希望する方が増えています。しかし、犬猫たちの置かれた現状について、深く理解している方はそう多くいません。東京都調布市にある「ラフスペース」では、ペット産業の陰で犠牲になった保護猫たちを中心に保護しており、オープン型保護猫シェルターのため、里親希望でなくても猫たちに触れ合いながら、活動を応援することができます。今回は代表の根本さんに、活動についてのお話をお伺いしました。
根本 真実(ねもと まみ)
1982年生まれ。福島県いわき市出身。小さな頃から地元で、犬や猫に囲まれて過ごしてきた。2016年7月、本業の傍らで「保護犬猫情報発信センター ラフスペース」をオープン。自身もボランティアとして、猫たちのケアや施設の掃除、通院、里親さんとのやりとり、お届けまでを行っている。
この活動はこんな人におすすめ
・保護猫の現状について知りたい
・保護猫の里親になりたい
・里親にはなれないが、保護活動を応援したい
施設で暮らしている間も、お家でいるように過ごして欲しい
活動を始めたきっかけを教えてください。
今から約9年前、埼玉県にあるペット里親会のボランティアに参加したことがきっかけです。当時、自宅環境が広くなったこともあり、犬を家族に迎え入れたいと考えていました。インターネットで保護犬の情報を調べていたとき、ペット里親会の代表である上杉さんのブログに辿り着きました。動物たちに対する考え方に胸を打たれ、里親になりたいと思ったのですが、実際に里親の条件を見てみると、今の自分の環境では迎え入れられないという現実がありました。そこで、ボランティアとして関わっていければ、たくさんの動物たちに出会えて救うことが出来るのではないかと考え、ペット里親会に通い始めました。
ボランティアスタッフから、ご自身で保護猫施設を運営しようと思ったきっかけは?
現在のラフスペースのようなイメージが湧いたのは、ペット里親会でたくさんの犬や猫たちと出会い、保護活動の現場を知れたことが大きかったですね。施設には日々、レスキューされたばかりの犬や猫たちがたくさんやって来ます。レスキューされてすぐ、衛生面や医療面でのケアを行い、その後、里親さんが見つかるまでの時間を施設で過ごします。次々と新しい子たちがレスキューされてくるのですが、ボランティアの人数も限られており、事故や感染症等を防ぐため、ケージ中心の生活になってしまうこともあります。
ボランティアスタッフとして活動する中で、「保護犬、保護猫として施設で暮らしている間も、お家でいるように過ごせたらいいだろうな〜」と感じていて。さらに、自宅から片道1時間以上かけて通っていたこともあり、「自宅の近くだったら、もっと時間をかけてあげられるかも」と、ペット里親会の代表・副代表の協力を経て、2016年7月、現在の場所にラフスペースをオープンしました。ペット里親会では、犬に比べて猫の譲渡数が少なかったこともあり、ラフスペースでは保護猫に焦点をあてて活動しています。
全ての子たちを対象にするのは難しいため、活動範囲を絞っていかないといけない
具体的にどんな活動をされていますか。
世の中にはたくさん助けたい動物がいますが、全ての子たちを対象にするのは現実的に無理があります。そのため、保護団体はある程度活動範囲を絞る必要が出てきます。ラフスペースでは、日本のペット産業の影で犠牲になっている子たちを中心に保護しています。彼らは行政の殺処分数にカウントされていません。ペットショップに並ぶ子たちの親である繁殖猫、病気や障害を持っている子、「スコティッシュフォールド=折れ耳」、「マンチカン=足が短い」などのように、人間が決めた定義に当てはまらないからという理由でペット産業のレールから弾かれた子。 あとは、多頭飼育崩壊からレスキューされた子たちもいます。
ラフスペースはオープン型シェルターとして運営しているので、里親希望の方以外にも「猫は飼えないけれど猫たちと触れ合いたい」「保護猫活動の応援をしたい」という方もいらっしゃいます。猫たちの里親探しはもちろん、人間によって振り回されてきた猫たちについての現実をみなさんに知ってもらえるよう、発信していきたいと思っています。猫たちが健気に生活している姿や、彼らと向き合う私たちの活動を見て、何か感じ取っていただけたら嬉しいです。
ボランティアスタッフは何名くらいですか。
私を含め20名以上のボランティアスタッフが、それぞれが出来る関わり方で活動しています。シフトに入っている人たちは、施設の掃除から猫たちの食事やトイレのお世話、爪切りやブラッシングケアなどを行います。また、シフトには入っていなくても、溜まった洗濯物をまとめて洗ってくれる人、病院への通院や必要な物を届けてくれる人などもいます。
ボランティアは大々的に募集をしていませんが、まずはラフスペースにいらしていただき、活動に賛同いただいた上でボランティアに興味のある方は、スタッフにお声掛けいただければと思います。
里親さんたちとは、譲渡後も親戚になった気持ちでコミュニケーションをとっていく
里親希望の場合、どういった流れになりますか。
ラフスペースでは、まずは実際に猫と触れ合っていただきます。その後、お迎えしたい気持ちが固まった方に、里親申込書へのご記入をいただいております。お申し込み後に私から連絡を入れ、ご家庭の生活環境を聞いたり、その子にお申し込みくださった理由を聞いたり、短い時間ではありますが、信頼関係を築きあげた上で譲渡の判断をさせてもらっています。
また、譲渡したら終わりではなく、譲渡後も猫を通して親戚になった気持ちで、お家で暮らしている様子を写真でいただいたり、病気や辛いタイミングでの相談を受けたり、 継続的にコミュニケーションを続けています。
活動をする上での課題・困っていることはありますか。
この子たちのように救えている猫たちはほんの一握りで、この瞬間にも犠牲になっている命があります。全ての子たちを助けられているわけではない、という現実があるので、そこの葛藤ですかね……。より多くの命を救いたいという気持ちもあるし、一匹ずつ丁寧に譲渡したいという気持ちもあります。救わないといけない子たちの数に対して、いま活動している団体・ボランティアの数は圧倒的に足りていないと思います。
この活動をしていて良かったと思う瞬間を教えてください。
たくさんありますが、やっぱり猫や人との出会いですかね。人間に振り回されて、苦労してきたこの子たちに出会えた瞬間や、里親さんなど私たちに関わってくれている方たちとの出会いが素晴らしくて。
ラフスペースでは、難病や病気の子たちを助けるチャリティバザーを不定期で開催しています。バザーというと、値引き交渉が多いイメージがありますが、ラフスペースのバザーは反対で、気持ちを寄せに来てくださっているの方が多いため、たくさんの売り上げをいただいています。そういったバザーを開催する度に、多くの方たちの優しさに助けられていると気がつきますし 、私たちの活動の支えにもなっています。
里親希望以外にも、来訪して寄付をすることで保護猫活動を応援できる
私たちはどのような関わり方ができますか。
先ほどお話したチャリティバザーに来ていただいたり、バザー品を提供いただいたり。また、施設をご利用いただくことで保護猫活動の応援ができます。ラフスペースは猫カフェとは違うため、入場料という形ではなく、ご来訪いただいた方にはお一人様あたり1時間1,000円程度の寄付をいただいております。また、寄付は銀行振込でも受付可能です。
その他、物品の寄付なども受け付けていますか。
はい。都度、必要なものは「Amazon欲しいものリスト」を更新していますし、使わなくなった家猫のアイテムやフードなど、日々さまざまな寄付をいただいております。フードやサプリ、猫砂などはすぐになくなってしまうため、寄付いただけるのは本当にありがたいです。また、「今これが足りていない」とFacebookやInstagramで発信すると、里親さんや応援いただいている方が送ってくださるので、本当に感謝しています。
より多くの人たちが現実を知るだけでも、変わっていける
活動をする上での目標やゴール・今後の活動について教えてください。
目標という目標はありません。ただ、“救わなければいけない犬や猫”がいなくなればいいと思っています。そのためには、誰かが悪いとか、誰かが変わらないといけないのではなく、みんながどうしていきたいか。社会全体の価値観が変わっていくべきだと考えています。
保護猫を迎え入れるという選択肢だけではなく、より多くの人たちが現状を知るだけでも変われると思います。私たちの活動が、問題提起をしていくきっかけの一つになればいいな、と願うばかりです。